「紫禁城史話」というタイトルから紫禁城について詳しく分析した本だと思ったら、紫禁城建設以後の中国史について述べた本でした。それも10分の9が清王朝史に当てられているので実際は「清王朝史話」と呼んだ方が正しいと思います。この本の主人公は紫禁城ではなく歴代の皇帝たちです。というわけで中国史に詳しい人からしたら特別取り上げる必要のない本になるかもしれません。清王朝史について知りたい人にはまずまずの内容だと思います。
「紫禁城史話」というと、まるで故宮の建築に関する書物か何かのように受け取る向きもあるかもしれませんが、本書は、清一代に亘る政治史を、皇帝たちを主人公に据えて概観するものです。なぜ「紫禁城史話」なのかと言えば、清朝は2000年の歴史を誇る「皇帝独裁政治の最高かつ最終の段階」であるため、その政治の推移や功罪をマクロに眺め渡すためには皇帝たちの言動に注目するのが一番、というのが著者の主張であり、そうした視点のシンボルとして「紫禁城」の文字を冠しているのです。
本書はもともと同じ著者による「物語 中国の歴史」の続編として構想された由であり、「物語各国史」シリーズと同様、語り口はたいへん平易であり、また内容的にもバランスのとれた良書と言えます。煩雑な固有名詞の登場を極限し、皇帝たちにまつわる興味深いエピソードを中心とした骨太の記述になっているので、この分野に親しみのない読者にも楽しく読み進めることができるでしょう。清朝の複雑な性格についても、ほどよい塩梅でうまく描かれていると思います。韃靼文人皇帝たちの面目躍如という観があります。
他方、本書における著者の語り口は、いわば「数式を使わずに相対論を分かりやすく解説する」みたいなところがあり、分かりやすさの点では申し分なく、また質的にも端倪すべからざるものがあるのですが、より詳しく知りたいと思う読者にとっては些か物足りないものがあるかも知れません。せめて参考文献のリストなりとも付いていれば、と思うのは小生だけではないかも知れません。